飲食店などの厨房では、グリストラップの設置が義務付けられています。グリストラップは週1回程度の清掃が推奨されていますが、清掃方法がわからず悩む方も多いです。
この記事では、グリストラップの役割や清掃方法、専門業者に依頼するメリットなどを詳しく解説します。記事を読めば、グリストラップの適切な管理方法がわかり、衛生的で効率的な厨房の運営ができます。
グリストラップとは業務用の厨房に設置する油脂分離装置
グリストラップについて理解するための基礎知識は、以下の2点です。
- グリストラップの役割
- グリストラップの構造
グリストラップの役割
グリストラップには、油脂分を含む排水から油分を分離し、下水道への油脂の流出を防ぐ役割があります。
グリストラップの役割は、以下のとおりです。
- 悪臭の発生を抑制する
- 配管の詰まりを防止する
- 排水処理施設の負担を軽減する
- 水質汚濁を防止する
- 環境に関する法令を順守する
- 火災のリスクを軽減する
グリストラップは飲食店などの厨房において、重要な役割を果たしています。適切に設置し、定期的に清掃することで、さまざまな問題を未然に防げます。
グリストラップの構造
グリストラップの主要な構造と役割は、以下のとおりです。
部位 | 役割 |
流入口 | 汚水や油脂を含む流体が流れ込む部分 |
仕切り板 | 油脂や固形物を効率的に分離させる 汚水の流れを均等に分散 |
トラップ部 | 油脂が水面に浮き固形物が底に沈む 汚水から油脂と固形物を効果的に分離させる |
流出口 | 油脂や固形物が取り除かれた水を排水管へ流す |
4つの部分が連携して、効果的に油分や固形物を分離する構造です。流入口から排水が入ると、油分は水面に浮上し、重い固形物は槽の底に沈殿します。仕切り板は、油分が次の槽に流れ出るのを防ぐ役割を果たします。トラップ部でも油分の分離が行われ、浄化された水は最終的に流出口から排出される仕組みです。
大きな固形物を捕捉して配管の詰まりを防ぐために、バスケットが設置されている場合もあります。グリストラップの各槽の容量や形状は、設置場所の条件に応じて変化します。飲食店の規模や排水量に合わせて、適切なサイズや構造のグリストラップを選ぶことが大切です。
グリストラップの種類と設置場所
グリストラップは、厨房の規模や用途に合わせて適切な種類と設置場所を選ぶ必要があります。主に使われる以下の種類を解説します。
- 屋内埋設型
- 屋内床置き型
- 屋外埋設型
屋内埋設型
屋内埋設型は、床下に設置するタイプです。省スペース性に優れており、厨房内の床面を有効活用できる点が特徴です。厨房の美観を損なわずに、厨房スペースを広く使えるため作業効率が上がります。
屋内埋設型には配管工事が必要なため、初期費用がかかる点がデメリットです。他のタイプよりも設置後のメンテナンスがやや難しく、定期的な点検と清掃が必要です。清掃時には床を開ける必要があるため、作業に時間がかかることもあります。
屋内埋設型の容量は比較的小さめで、大規模な厨房には不向きです。設置の際は、床下構造に適合するか、耐荷重性は十分かなどを確認する必要があります。床下に設置するため、水漏れが起きると建物の構造に悪影響を与える可能性があります。適切な防水対策を行うことも欠かせません。
屋内床置き型
屋内床置き型は、厨房の床に直接設置するタイプです。設置スペースがコンパクトで、小規模な厨房に適しています。移動や清掃は比較的容易ですが、容量が小さいため頻繁な清掃が必要です。床面からの高さがあるため、排水管との接続にも注意しましょう。
屋内床置き型を設置する際は、臭気対策や床荷重の確認が欠かせません。耐久性や耐食性が高く、メンテナンスのしやすい製品を選ぶことも大切です。
屋外埋設型
屋外埋設型は、地面に埋めて設置するタイプです。大型で高い処理能力を持っているため、大規模な飲食店や食品工場に適しています。地上部に点検口があり、メンテナンスや清掃がしやすい点も特徴です。点検口には密閉性の高いフタが付いており、雨水の流入を防ぐ構造です。
臭気対策として、活性炭フィルターなどを併用する場合もあります。屋外埋設型は設置工事が必要なため、初期費用が比較的高いデメリットがあります。寒冷地では凍結防止対策も必要です。
定期的な点検や清掃は、専門業者によるメンテナンスが望ましいです。規模や費用面を検討すると、屋外埋設型は長期的な使用に適しています。
グリストラップの清掃方法と頻度
グリストラップの清掃方法と頻度に関して、以下の点を解説します。
- バスケットの清掃
- 浮上した油脂の清掃
- 沈殿物の清掃
- トラップ管の清掃
- 清掃を怠ると発生するトラブル
バスケットの清掃
バスケットの定期的な清掃は、グリストラップの性能を維持し、排水トラブルを防ぐために重要です。バスケットの清掃手順は、以下のとおりです。
- バスケットを取り出し、中のかすを除去する
- バスケットを水で洗い、付着した油脂や汚れを落とす
- ブラシやスポンジで擦り洗いし、頑固な汚れを除去する
- バスケットを乾燥させる
- 破損や劣化がないか点検する
- 消毒・殺菌処理をする
清掃は使用状況によって毎日~週1回程度の頻度で行いましょう。こまめな清掃を心がけることで、グリストラップの効果を最大限に引き出せます。
»グリストラップの水の抜き方や適切な管理方法を解説!
浮上した油脂の清掃
浮上した油脂の清掃を適切に行うことで、排水設備の効率性を保ち、環境への悪影響を防げます。清掃手順は以下のとおりです。
- 専用のひしゃくを使用して油脂をすくい取る
- 油脂を専用容器へ移す
- 油膜が残らないように表面を細かくチェックする
- 必要な場合は吸着マットを使用して残った油分を吸収する
清掃頻度は、使用状況に応じて週1〜2回程度が目安です。油脂が多い場合は頻度を増やす必要があります。回収した油脂は適切に廃棄するか、再利用しましょう。清掃後は記録をつけて管理することで、グリストラップの状態を把握し、効果的なメンテナンスができます。
沈殿物の清掃
沈殿物の除去は、グリストラップの機能を維持し、悪臭や詰まりを防ぐうえで欠かせません。沈殿物の清掃手順は以下のとおりです。
- バスケットを取り出し、沈殿物を除去する
- スコップやバケツを使って沈殿物をすくい取る
- 底部や壁面に付着した汚れをブラシで擦り落とす
- 高圧洗浄機で残った汚れを洗い流す
作業時は手袋やマスクなどの保護具を着用し、安全に配慮しながら行ってください。適切な換気を行い、悪臭や有害ガスに注意しましょう。清掃後は、取り除いた沈殿物を適切に廃棄処理します。作業完了後は、水を張って正常に機能するか確認することも大切です。
トラップ管の清掃
配管の詰まりを防ぎ、厨房の衛生状態を保つためには、トラップ管の清掃を定期的に行う必要があります。トラップ管の清掃手順は、以下のとおりです。
- 専用のブラシやスポンジを用意する
- 内部の油脂や汚れを除去する
- 高圧洗浄機を使って頑固な汚れを落とす
- 清掃後は水で十分にすすぐ
- 必要に応じて消毒剤を使用する
トラップ管の清掃を怠ると、悪臭の発生や配管の詰まりなどの深刻な問題につながる可能性があります。清掃の頻度は、使用状況に応じて週1~月1回程度が適切です。厨房の規模や使用頻度などの状況を確認しながら、清掃頻度を調整します。
日常の清掃に加え、定期的に専門業者による点検・清掃を受けることがおすすめです。見落としがちな部分まで確実に清掃することで、厨房内を清潔に保てます。
清掃を怠ると発生するトラブル
グリストラップの清掃を怠ると、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 悪臭の発生
- 排水管の詰まり
- 害虫の発生
- 衛生状態の悪化
- 排水能力の低下
- 油の流出による環境汚染
- 近隣住民とのトラブル
- 行政指導
- 設備の寿命短縮
- 清掃コストの増大
厨房の不衛生な状態は、顧客や従業員の健康に悪影響を及ぼしかねません。油の流出が生じると、環境汚染や法令違反のリスクも高まります。定期的に清掃を行い、不要なトラブルを防ぎましょう。
»グリストラップの臭いの原因は?問題点や対策方法を詳しく解説
グリストラップの清掃を自分で行うときの注意点
グリストラップの清掃を自分で行うときは、以下の点に注意が必要です。
- 清掃に必要な道具をそろえる
- 清掃時のけがに注意する
清掃に必要な道具をそろえる
グリストラップを安全かつ効果的に清掃するために、道具は必要不可欠です。
衛生的に清掃するため、以下の保護具や道具を準備しましょう。
- ゴム手袋
- 長靴
- マスク
- 防水エプロン
- 洗剤
- 消臭剤
- ウエス
- ごみ袋
- 水切りネット
- 懐中電灯
グリストラップ内の汚れを効率的かつ効果的に除去するには、以下の道具が役立ちます。
- バケツ
- ひしゃく
- ヘラ
- ブラシ
- スポンジ
清掃の際は洗剤や消臭剤を使うと、油脂や臭いの除去に効果的です。清掃後の後片付けには、ウエスやごみ袋、水切りネットを使用します。暗い場所での作業用では懐中電灯があると便利です。清掃前に必要な道具をチェックし、不足しているものがあれば補充しておきましょう。
» グリストラップの清掃に必要な道具や清掃手順を解説!
清掃時のけがに注意する
グリストラップの清掃時にはけがのリスクがあるため、十分な注意が必要です。グリストラップ周辺は油や水でぬれていることが多いため、転倒防止のために滑りにくい靴を履きましょう。金属製の部品の鋭利な部分でけがをしないよう、手袋を着用することがおすすめです。
重量物を扱う際は、無理な姿勢による腰痛やけがに注意しましょう。有害な気体を吸い込まないよう、マスクを着用することも大切です。グリストラップからは悪臭が発生することがあるので、適切な保護具を使用しましょう。安全に注意して清掃作業を行うことは、作業効率の向上につながります。
»グリストラップの清掃方法とは?ゴミの取り扱いまで詳しく解説
グリストラップの清掃を専門業者に依頼するメリットと費用
グリストラップの清掃を専門業者に依頼するメリットと費用について解説します。
専門業者に依頼するメリット
専門業者に依頼すれば、グリストラップの清掃を効率的かつ確実に行うことが可能です。プロの知識と経験を活かした清掃は、衛生的でけがをするリスクもありません。専門業者は清掃の際に点検も行うため、故障や不具合を早期に発見できる点もメリットです。
清掃記録の保管などの管理全般を依頼できる場合があります。長期的に見ると、専門業者に依頼することで設備のメンテナンスコストを削減できる可能性もあります。
専門業者に依頼するときの費用
グリストラップの清掃を専門業者に依頼する際の費用は、1回当たり約1万5千~3万円程度です。定期契約の場合、月1回の清掃で月額1万~2万円程度です。費用は以下の要因によって変動します。
- グリストラップの規模
- 汚れの程度
- 作業の難易度
- 地域
- 業者の料金設定
深夜作業や特殊な汚れの除去などにより、追加料金が発生する場合があります。相場を知るためには、複数の業者から見積もりを取得して比較検討することがおすすめです。
» グリストラップ清掃の料金相場や節約のコツ、自分での清掃方法まで詳しく解説
専門業者に依頼する際に注意したい項目を以下にまとめました。
項目 | 注意点 |
業者の実績や評判 | 複数の業者から見積もりを取る 過去の実績や施工例、顧客レビューを確認 |
作業内容の詳細 | 清掃方法や洗浄頻度、処理方法を明確にする 清掃対象範囲を具体的に確認 |
料金体系の透明性 | 見積もり内容の詳細を確認 追加費用が発生する可能性を確認 |
アフターサービスの有無 | 清掃後の点検やメンテナンスやトラブル発生時の対応を確認 アフターサービスや保証期間の内容を確認 |
適切な業者を選べば、効果的かつ経済的なグリストラップの清掃ができます。複数の業者を比較検討しながら、状況に合った最適な清掃サービスを選択することが重要です。
グリストラップに関する法規制とコンプライアンス
グリストラップに関する法規制とコンプライアンスとして、以下の2点を把握しておきましょう。
- 排水基準
- ごみ処理に関する法律
排水基準
グリストラップを適切に管理することは、法律で定められた排水基準を守るために重要です。水質汚濁防止法にもとづく排水基準は以下のとおりです。
- BOD:160mg/L以下
- COD:160mg/L以下
- SS:200mg/L以下
- n-ヘキサン抽出物質:30mg/L以下
- pH:5.8以上8.6以下
» 環境省・水・土壌・地盤・海洋環境の保全・一般排水基準(外部サイト)
自治体によっては、さらに厳しい基準が設けられている場合があるため注意しましょう。特定施設を持つ事業所は、排水量に関係なく規制の対象となります。基準を守らないと罰則を受ける可能性もあります。定期的な水質検査を行い、記録を保管・報告することは欠かせません。
ごみ処理に関する法律
グリストラップの清掃と関連する廃棄物処理には、法律で定められた規制があります。「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)が主に適用されます。法律では、事業者が自らの責任で適切に廃棄物を処理しなければいけません。以下の行為は法律違反となり、罰則の対象になる可能性があるため注意しましょう。
- 許可のない業者への委託
- 不適切な保管や処理
- マニフェストの不備
» 環境省・廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)(外部サイト)
グリストラップから回収した油脂や汚泥は産業廃棄物に分類されるため、特別な注意が必要です。産業廃棄物の処理には、許可を受けた業者に委託しなければなりません。保管や運搬、処分に関する基準を守ることが求められます。マニフェスト(産業廃棄物管理票)の発行と保管が義務付けられています。
地域によっては、独自の条例や規制が設けられているケースもあるため、事前に確認しましょう。適切な廃棄物処理は、環境保護と法令順守の観点からも重要です。関連法規を十分に理解し、事業者としての責任を持って対応しましょう。
まとめ
グリストラップの清掃は、飲食店や食品工場などの厨房において重要です。定期的な清掃により、悪臭や排水トラブルを防げます。自分で清掃する場合は、適切な道具の準備と安全対策が欠かせません。
専門業者に依頼すれば、確実な清掃と法令順守がしやすくなります。清掃頻度は使用頻度によって異なりますが、週1回程度が目安です。グリストラップの適切な維持管理を行うことで、快適な厨房環境を保ちましょう。