衛生管理は、飲食店を経営するうえで優先度の高い対策課題です。近年、HACCPの義務化により、より厳格な衛生管理が必要になりました。この記事では、HACCPの概要や飲食店に求められる対応について説明します。導入のメリットやリスク、役立つツールなどを解説します。
記事を読むことで、HACCPによる衛生管理を基礎から学ぶことが可能です。現在未導入の場合でも、スムーズに導入を進められます。HACCPは従来の衛生管理を体系化した仕組みです。食中毒のリスク低減や、安全な料理の提供につながる飲食店が遵守すべき制度について学びましょう。
HACCPとは衛生管理の国際的な手法

HACCP(ハサップ)とは、食品の入荷から出荷までの安全性を確保する国際的な衛生管理手法です。HazardやAnalysis、Critical、Control、Pointの頭文字を取っています。以下の基本情報について解説します。
- HACCP義務化の背景
- HACCPを導入するメリット
HACCP義務化の背景
HACCP義務化の背景には、食品安全に対する世界的な意識の高まりがあります。近年、食中毒事件の増加や食品流通の複雑化により、従来の衛生管理手法では対応が難しくなりました。そこで注目されたのが、科学的根拠にもとづく効果的な衛生管理システムである、HACCPの活用です。
HACCPは食品の安全性を高め、消費者の信頼を得るために不可欠な仕組みです。仕組みの義務化には、以下の背景があります。
- 国際的な食品安全基準の統一化
- 食品事業者の自主的な衛生管理の促進
- 中小規模事業者への配慮と段階的な導入
日本でも食品衛生法が改正され、HACCPに沿った衛生管理が制度化されました。HACCPの義務化は、食品をより安全に管理し、継続的な改善を目指す基準となっています。
HACCPを導入するメリット
HACCPの導入は、飲食店にとって多くのメリットが期待できる施策です。食品の安全性が大幅に向上します。食中毒のリスク低減にもつながり、お客様は安心して食事を楽しめます。経営面で期待できるメリットは、以下のとおりです。
- 従業員の衛生意識の向上
- 顧客からの信頼
- ブランドイメージ向上
- 経営の効率化
HACCPの導入により、国際的な取引も円滑になります。法令順守の証明になり、監査や検査の際もスムーズな対応が可能です。コスト削減にもつながるので、長期的には経営にプラスの影響を与えます。HACCPの導入は、飲食店の安全性と信頼性を高めるための重要な取り組みです。
HACCP義務化で飲食店に求められる対応

HACCP義務化により、飲食店には新たな衛生管理が必要になりました。義務化により求められる、以下の対応について解説します。
- 衛生管理計画の策定
- 衛生管理の実施
- 実施状況の確認と記録保存
衛生管理計画の策定
衛生管理計画の策定は、HACCPの導入に必要な最初の一歩です。衛生管理計画には、食品の安全性を確保するための手順や方法が含まれます。計画の策定を進める際は、食品衛生責任者を決めましょう。衛生管理の中心的な役割を担当します。日々の衛生管理を記載する手順書も必要です。
重要管理点(CCP)の特定も行います。CCPとは、食品の安全性を脅かす可能性のある工程のチェックポイントです。CCPでは、主に以下の確認や管理を行います。
- 食材の保管温度
- 調理時の加熱温度
- 食品の冷却時間
各管理項目に対して管理基準を設定しましょう。冷蔵庫の温度は5℃以下に保つなど、基準として定めます。確認には、温度計による定期的な測定が有効です。基準から外れた場合の改善対応も計画に含めます。計画書には、トラブル時の対処法、検証手順や記録方法の改善案も記載しましょう。
記録として残す目的は、衛生管理の状況を問われた際に必要です。従業員教育計画を立て、定期的な見直しや更新期日を設定します。記録と更新を続けることで、常に最新の衛生管理を確認できます。
衛生管理の実施

衛生管理は、事前計画に沿った定期的な実行が必要です。衛生管理を実施する際は、以下のポイントを確認してください。
- 原材料の受け入れ時のチェック
- 保管温度の管理
- 調理器具の洗浄・消毒
- 調理場の清掃・整理整頓
- 従業員の健康状態確認
衛生管理と手順について、従業員に正しく認識させましょう。手洗いの徹底や作業着・帽子・マスクの着用など、基本的な衛生習慣は食中毒のリスク低減にも効果的です。交差汚染を防ぐために作業の区分けも必要です。加熱食材の温度確認や、調理済み食品の保管状況にも注意しましょう。
衛生管理の徹底は、お客様に喜ばれる店づくりにつながります。
実施状況の確認と記録保存
実施状況の確認と定期的な記録保存を導入する際は、以下の項目を取り入れましょう。
- チェックリストの使用
- 日々の記録
- 従業員教育の記録
記録は紙またはデジタルで管理し、最低1年間保管してください。保健所の立ち入り検査の際に、証拠として提出しましょう。定期的に記録を見直すことで、改善点の洗い出しにもつながります。問題点の早期発見や、速やかな改善が期待できます。実施状況の確認と記録保存は、衛生管理の改善を続ける重要な取り組みです。
HACCP義務化で飲食店に求められる衛生管理

HACCP義務化により、飲食店には高度な衛生管理が必要になりました。制度を導入する際に求められる、以下の衛生管理の方法について解説します。
- 原材料の受け入れと保管
- 調理過程での交差汚染防止
- 従業員の健康管理と作業着の衛生管理
- 調理器具と施設の清掃・消毒
原材料の受け入れと保管
原材料が到着したら、品質と鮮度を確認し、不良品の混入を防ぎます。保管する際は、温度管理に注意しましょう。冷蔵品は10℃以下、冷凍品は-18℃以下で保管すると、細菌の増殖を抑えられます。先入れ先出しの原則も忘れてはいけません。入荷の古い順から使用することで、食品ロスを減らして鮮度も保てます。
原材料の保管では、以下の点にも注意しましょう。
- 交差汚染を防ぐ対策
- 賞味期限や消費期限の確認
- 清潔な容器や包装の使用
交差汚染を防ぐには、生肉と野菜など異なる食材を区分けして保管します。賞味期限や消費期限を確認し、期限切れの原材料がないか注意しましょう。清潔な容器・包装の使用、虫・異物の混入防止も必要な対策です。正しい対策を行うことで、安全で高品質な料理を提供できます。
ただし、衛生管理は一度きりではありません。定期的な在庫確認と整理整頓が求められます。
調理過程での交差汚染防止
HACCP義務化により、調理過程の交差汚染防止がさらに重要視されます。交差汚染とは、細菌やアレルゲンが他の食品に移り、食中毒や健康被害を引き起こす現象です。生肉や魚を扱った後は、まな板や包丁をすぐに洗浄・消毒することが大切です。別の食材に触れる際は、新しい器具を使用しましょう。
冷蔵庫内の食材を区分けすると接触予防になり、汚染リスクを軽減できます。従業員の手洗いや衛生習慣の徹底も欠かせません。食材に触れる前後で必ず手を洗い、衛生手袋を使うと交差汚染の発生を抑えられます。交差汚染防止を徹底することが、飲食店の信頼につながります。
従業員の健康管理と作業着の衛生管理

従業員の健康管理と作業着の衛生管理は、食品安全を確保するうえで重要な対策です。毎日の健康状態の確認と記録を行いましょう。体調不良の従業員は調理作業から外すことで、食中毒のリスクを減らせます。手洗いも欠かせないため、以下のタイミングで行うよう徹底してください。
- 調理前
- トイレ使用後
- 原材料に触れた後
作業着の衛生管理も重要なポイントです。清潔な作業着や帽子、マスクを着用し、毎日の洗濯や交換が求められます。爪は短く切り、マニキュアや付け爪は禁止、アクセサリーや時計の着用も控えましょう。作業中は喫煙や飲食、ガムは避けてください。食品汚染のリスクを高める恐れもあります。
定期的な健康診断も必要です。従業員の健康状態を把握し、必要に応じて適切な対応を行います。従業員への衛生教育の実施と、記録も忘れずに実行してください。
調理器具と施設の清掃・消毒
飲食店のHACCP義務化に伴い、調理器具と施設の清掃・消毒は不可欠な取り組みとなりました。清掃・消毒の不備があると、細菌の繁殖や食品の汚染につながり、消費者の健康被害のリスクが高まります。調理器具は使用後すぐに洗浄し、消毒を行うことが基本です。
熱湯や専用の消毒液を使用すると、目に見えない細菌も除去できます。包丁やまな板、ボウルなどの器具は、食材ごとに分けて管理しましょう。施設全体の清掃も同様に気を付けます。冷蔵庫や調理台、排水溝など、食品に直接触れる場所は定期的に洗浄しましょう。施設内も衛生基準を満たす状態を維持することが大切です。
清掃スケジュールを作成し、担当者を明確にすることで、日常の清掃・消毒が確実に実行される環境を整えられます。調理器具と施設の衛生管理を徹底することは、HACCPに適合した安全な食品提供に直結します。信頼される飲食店運営のために、欠かせない取り組みです。
» 飲食店の排水溝とグリストラップの効果的な清掃方法について詳しく解説
飲食店がHACCPを導入しないリスク

HACCPを導入しない飲食店は、さまざまなリスクに直面する可能性があります。未導入により予想されるリスクは以下のとおりです。
- 法的な罰則
- 食中毒の発生
- 信用の低下
法的な罰則
HACCPを導入しない飲食店に対しては、法律にもとづいた厳しい罰則が設けられています。違反した場合、以下の処分が科される可能性があります。
- 営業停止処分
- 営業許可の取り消し
- 罰金刑
- 懲役刑
HACCPの未導入による処分は、食品衛生法に違反した場合に適用され、罰金刑は最大50万円、懲役刑は最大2年です。しかし、いきなり重い罰則が科されるわけではありません。改善命令や是正勧告が出され、改善が見られない場合に立入検査が実施されます。検査後も改善が見られない飲食店は、公表措置の対象です。
最終的に営業停止処分が下されます。違反した場合でも段階的な対応により、衛生管理の改善の機会が与えられています。
食中毒の発生

食中毒の発生は、飲食店にとって深刻な問題です。食中毒を防ぐには、HACCPにもとづいた衛生管理が効果的です。導入により、食材の受け入れから提供まで各工程のリスクを把握し、適切な対策を行えます。食中毒の発生に対する対策は、以下のとおりです。
- 食材の保管温度管理
- 調理器具の洗浄・消毒
- 従業員の健康管理と手洗いの徹底
- 調理済み食品の温度管理
HACCPを導入しないと、対策不足のため食中毒の発生リスクが高まります。食中毒が発生による問題は、お客様の健康被害だけではありません。店舗の営業停止や信用失墜につながるため、十分な注意が必要です。
信用の低下
衛生管理の不備が明らかになると、信用や信頼を失い、客数減少につながります。失った信用を取り戻すことは難しく、店舗の経営に影響を与えます。信用の低下により発生するリスクは、以下のとおりです。
- SNSやクチコミサイトでの否定的評価
- 取引先や協力企業からの信用低下
- ブランドイメージの毀損
衛生管理の不備は、競合他社と比較されると不利に働きます。地域社会からの信頼も失い、地元での事業展開が困難になる可能性もあります。従業員のモチベーション低下や離職につながり、店舗の運営にも支障をきたす恐れもあるため、衛生管理には気をつけましょう。
飲食店がHACCPを導入するときに役立つツール

飲食店がHACCPを導入する際に役立つ、以下のツールについて解説します。
- 厚生労働省発行の手引書
- HACCP対応アプリ
厚生労働省発行の手引書
厚生労働省は、飲食店向けのHACCP導入を支援するための手引書を公開しています。手引書は小規模な一般飲食店が対象で、HACCP導入に必要な詳しい情報が書かれた資料です。手引書の主な内容は以下のとおりです。
- 衛生管理計画のひな形
- 重要管理点(CCP)の設定例
- 記録様式のサンプル
- 衛生管理のポイント
- 従業員教育用の資料
手引書は、厚生労働省のウェブサイトから無料でダウンロードできます。定期的に内容が更新されるので、最新の情報であるか確認してください。業種別にわかれているため、運営中の必要な情報を入手しましょう。手引書を活用すると、未経験でもHACCPの導入をスムーズに進められます。
» 厚生労働省(外部リンク)
HACCP対応アプリ
HACCP対応アプリは、飲食店の衛生管理の効率化に役立つツールです。面倒な記録作業が簡単になり、衛生管理の質が向上します。HACCP対応アプリの主な特徴は、以下のとおりです。
- スマートフォン・タブレット対応
- 温度・清掃記録・健康チェックの管理
- クラウド保存
- 自動集計・分析機能
アプリはデジタル化して保存するので、紙の記録よりも管理が楽になります。記録忘れや異常値があれば表示があり、問題にすぐに気付ける点もメリットです。多言語対応しているアプリも多いので、外国人スタッフがいる店舗で役立ちます。セキュリティ対策も行われており、個人情報や企業情報も安全に保護されます。
専用のテンプレート付きのアプリを使えば、初めての人でも使いやすいのでおすすめです。法令遵守状況の確認や、監査対応のサポート機能を備えるツールもあります。HACCP導入の際にアプリを使用すると、便利で心強い味方になります。
» 厨房の清掃方法や業者への依頼のメリットを解説
飲食店がHACCPを導入するときによくある質問

HACCPの導入に関するよくある質問をまとめました。導入を検討している人は参考にしてください。
- HACCPの導入に必要な設備投資は?
- HACCPを導入しないと営業できない?
HACCPの導入に必要な設備投資は?
HACCPの導入には多くの場合、大規模な投資は必要ありません。基本的な衛生設備は、すでに多くの飲食店に設置されています。代表的なものとして、手洗い設備や温度計、冷蔵庫などです。以下の備品がない場合は、新たに用意する必要があります。
- 記録用のノートやタブレット
- 衛生管理用品
- 従業員用の作業着や帽子
- 食品保管用の密閉容器
- 専用の掃除道具
- 害虫・ネズミ対策用品
- 温度管理用のデータロガー
設備だけでなく、衛生管理マニュアルの作成・印刷費用や、従業員教育のための資料作成、研修費用も必要です。ただし、設備投資は一度に行う必要はありません。段階的に導入を進めて、負担を軽減しましょう。既存の設備や用品を有効活用することで、コストを抑えることが可能です。
» 厨房での虫対策は?衛生管理の基本と虫の発生を防ぐ方法を解説
HACCPを導入しないと営業できない?
2021年6月の完全義務化により、HACCPを導入しないと営業できなくなりました。小規模な事業者でも、簡易版HACCPにより対応できます。導入しない場合は、営業許可の取り消しや更新拒否のリスクが発生するので注意が必要です。法令違反とみなされると、罰金や営業停止処分を受ける可能性もあります。
ただし、すぐに営業停止にはならず、保健所による段階的な指導が行われます。対象になった場合、保健所の指導に従いながら対応してください。業界団体や行政の支援制度を活用すると、よりスムーズに導入できます。HACCPの導入は難しく感じますが、飲食店の運営では必須の対策です。
難しく感じる場合は専門家のアドバイスを受けながら、計画的に導入を進めましょう。
まとめ

HACCPの導入は、飲食店には欠かせない制度です。適切な衛生管理の証明となり、安全な食事を提供できて、お客様からの信頼につながります。基本的な衛生管理の徹底から始めましょう。HACCP導入の際の確認ポイントは、以下のとおりです。
- 原材料の適切な管理
- 調理過程での交差汚染防止
- 従業員の衛生管理
- 調理器具や施設の清掃・消毒
確認事項の計画的な実施と記録が、HACCPの基本です。導入に大規模な設備投資は不要ですが、ルールに沿った衛生管理の実行は必須です。厚生労働省の手引書やHACCPアプリなどのツールを利用して、導入をスムーズに進めましょう。
HACCPの取り組みは、法令順守だけでなく、食中毒予防や店舗の信頼向上にもつながります。お客様が安心して食事を楽しむためにも、HACCPの導入を検討してください。