油の処理方法に悩む飲食店経営者や清掃業者は多くいます。この記事では、飲食店における油の種類や処理の重要性、リサイクル方法、処理業者の選び方を詳しく解説します。記事を読めば、関連法律やコスト削減方法、油処理など関する、包括的な知識の習得が可能です。
油を処理する際には効率的かつ法令を遵守した、適切な油処理方法が求められます。適切な方法の選択で、衛生管理と環境保護の両方を実現しましょう。
飲食店で発生する油の種類

飲食店で発生する油の種類は以下のとおりです。
- 植物性油
- 動物性油
- 鉱物性油
- 油脂分を含む廃水
植物性油
植物性油は、大豆油や菜種油、コーン油、ごま油などが代表的な例で、主に調理や揚げ物に使用されます。常温で液体の油が多く、飽和脂肪酸が少なく不飽和脂肪酸が多いのが特徴です。比較的低温で劣化しやすく、酸化しやすいといった性質もあります。
長期保存には注意が必要ですが、使用後に固形化しにくい点はメリットです。動物性油や鉱物性油に比べて環境への負荷が比較的少ないのが特徴です。リサイクルや再利用が比較的簡単なので、環境に配慮した経営を目指す人にとっては適した選択肢となります。
動物性油

動物性油は、肉や魚から抽出される油脂です。代表的な動物性油には、ラード(豚脂)や牛脂、鶏油などがあります。常温で固体の油が多く、飽和脂肪酸を多く含んでいるのが特徴です。酸化しにくく保存性が高いため、調理時に独特の風味を加えます。
主に揚げ物や炒め物に使用されますが、過剰摂取による健康への影響が懸念されるため、使用量には注意が必要です。廃棄時に固形化しやすいといった特徴もあります。排水管の詰まりの原因になりやすいので、適切な処理が求められます。
鉱物性油
鉱物性油は、飲食店の機械設備のメンテナンスに欠かせない油です。主に石油由来の油で、エンジンオイルや潤滑油が代表的な種類です。調理器具や冷蔵庫などの機械の動きをスムーズにする役割を果たします。食用ではないので、取り扱いには注意が必要です。
水に溶けにくい性質で、環境への影響が大きくなるため、以下の処理が求められます。
- 産業廃棄物として扱う
- 専門の処理業者に回収と処分を依頼する
- リサイクルして再利用する
油脂分を含む廃水

油脂分を含む廃水は、食器や調理器具の洗浄時に生じる排水です。BOD(生物化学的酸素要求量)が高く、適切に処理しないと水質汚濁の原因となります。グリストラップだけでは完全に油分を除去するのは難しいのが現状です。油脂分が下水道配管内で固着し、詰まりの原因となります。
詰まりは排水の流れを悪くするだけでなく、逆流を引き起こす可能性もあります。油脂分が腐敗すると、不快な悪臭が発生し、店舗内や周辺環境に悪影響を及ぼすので注意が必要です。油脂分が適切に処理されずに河川などに排出されると、水質汚濁を引き起こし、生態系に深刻なダメージを与えます。
油脂分を含む排水による問題を防ぐためには、専門業者による回収や処理がおすすめです。油水分離装置やバイオ処理など、さまざまな処理方法があります。自治体によっては、特定の基準値以下の処理が義務付けられている場合もあるので、注意が必要です。定期的な清掃とメンテナンスを行い、設備の適切な状態を維持しましょう。
» 油水分離槽の仕組みとは?基礎知識からメンテナンス方法まで解説
飲食店における油処理の重要性

飲食店における油処理の重要性を、以下の項目に分けて解説します。
- 衛生管理
- 環境保護
- 法律遵守
衛生管理
衛生管理を徹底するためには、定期的な清掃と消毒の実施が重要です。油の適切な処理と廃棄を行えば、以下の効果が期待できます。
- 悪臭の発生を抑える
- 害虫や害獣の侵入を防止する
- 清潔な調理環境を維持する
- 食の品質と安全性を確保する
衛生管理は従業員の健康を守るだけでなく、顧客の信頼の獲得や維持にもつながります。営業許可の取得や更新にも必要不可欠な要素です。
» 飲食店の衛生管理で気を付けるべきポイントを解説!
環境保護

適切な油処理で、水質汚濁や土壌汚染の防止が可能です。油を適切に処理せずに排水に流すと、河川や海洋の水質を悪化させ、水生生物に悪影響を与える可能性があります。油が土壌に浸透すると、地下水を汚染し、周辺の生態系に深刻な被害をもたらす恐れもあります。
適切な油処理は、地域の環境保全だけでなく、地球規模の環境問題への貢献も可能です。油のリサイクルで、資源の有効活用やカーボンフットプリントの削減にもつながります。
法律遵守
廃棄物処理法では、産業廃棄物処理業者への委託が義務付けられ、産業廃棄物管理票の正しい運用も求められています。食品リサイクル法にもとづいた油の再生利用も不可欠です。地域によっては、自治体の条例や規制にも注意が必要です。
» 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)|環境省(外部サイト)
排水に関しては、下水道法や水質汚濁防止法にもとづく基準により、油脂分の適切な分離と処理が求められています。法律を遵守するために、油処理に関する記録の保管と報告を確実に行いましょう。日々の処理量や処理方法などを詳細に記録し、必要に応じて関係機関に報告できる体制を整えます。
従業員全員が油処理の重要性と正しい方法を理解し、日常業務の中で実践できるよう、定期的な研修や指導を行ってください。油処理に関する法律や規制は改正される場合があるため、常に最新の情報を収集し、変更点があれば速やかに対応しましょう。法律を守れば環境保護に貢献し、店舗の信頼性を高められます。
法律は複雑で変更も多いので、専門家に相談するのがおすすめです。
» 下水道法|国土交通省(外部サイト)
» 水質汚濁防止法の施行について|環境省(外部サイト)
飲食店で発生した油をリサイクルする方法

飲食店で発生した油をリサイクルする方法は以下のとおりです。
- バイオディーゼル燃料として再利用する
- 石鹸やロウソクの原料にする
- 飼料や肥料にする
バイオディーゼル燃料として再利用する
バイオディーゼル燃料として再利用する方法では、廃油を精製して軽油と同等の性能を持つ燃料に変換できます。廃棄物となるはずだった油を燃料として活用すると、廃棄物処理に伴う環境への影響を軽減できます。新たな資源消費の抑制も可能です。
バイオディーゼル燃料は、燃焼時に排出されるCO2が植物の成長過程で吸収されるのが特徴です。石油由来の軽油と比較して、実質的なCO2排出量を削減できます。ディーゼルエンジンで利用できるため、自動車や農業機械、発電機などで幅広く使用可能です。燃料製造プロセスは比較的シンプルで低コストになります。
地域の廃油回収システムとの連携で、より効率的な再利用が実現し、エネルギー自給率の向上にも役立ちます。
石鹸やロウソクの原料にする

廃油を石鹸やロウソクの原料として活用する方法は、環境にやさしいリサイクル方法です。石鹸の場合、廃油をアルカリと反応させて石鹸化する必要がありますが、比較的簡単な工程です。ロウソクの場合、使用前にろ過して不純物を取り除く必要があります。
どちらの場合も、香料や染料を加えてカスタマイズできるため、オリジナル製品の製作が可能です。飲食店のブランディングにも活用できる、魅力的な活用方法となります。
飼料や肥料にする
飲食店で発生した油は栄養価が高いため、適切に加工すれば飼料や肥料への有効活用が可能です。動物の飼料として利用する場合は、油を専門的に加工して栄養価を調整します。肥料として使う場合は、土壌に直接還元したり、発酵させてコンポストを作ったりします。
飲食店から出る廃油を無駄にせず、資源として再利用できるのがメリットです。
飲食店で発生した油を処理する業者の選び方

飲食店で発生した油を処理する業者を選ぶポイントは、以下のとおりです。
- 産業廃棄物処理の許可
- 処理手順
- 実績
- 信頼性と評判
産業廃棄物処理の許可
産業廃棄物処理業者を選ぶ際には、産業廃棄物処理の許可の有無を確認しましょう。許可がない業者に油の処理を依頼すると、法律違反になる可能性があります。産業廃棄物処理の許可は、都道府県知事または政令市長から取得する必要があり、収集運搬業と処分業の2種類があります。それぞれ5年間の有効期限です。
許可証に記載されている情報は以下のとおりです。
- 許可番号
- 事業者名
- 許可の種類
- 有効期限
許可情報は公開されているので確認できます。特別管理産業廃棄物の場合は、別途許可が必要になる点に注意が必要です。
処理手順

飲食店で発生した油は、適切な処理手順を踏むと、環境保護と法律遵守を両立できます。業者の許可証を確認しましょう。廃棄物処理業者としての正式な許可を持っているか必ず確認します。業者の具体的な処理手順も詳しく聞いてください。
油の回収方法から最終的な処分までの流れの把握で、適切な処理が行われるかどうかの判断が可能です。過去の処理実績も確認しましょう。他の飲食店での実績や評判を調べると、業者の信頼性を判断する材料になります。処理能力と価格の比較も大切です。
複数の業者から見積もりを取り、自店の規模に合った適切な処理能力を持つ業者を選びます。緊急時の対応体制も確認が必要です。突発的な問題が発生した際の速やかな対応は、スムーズな店舗運営に関わる重要なポイントになります。契約内容も細かく確認しましょう。
定期的な報告書の提出を依頼するなど、透明性の高い取引を心がけてください。
実績
業者が持つ許認可の種類を確認しましょう。廃棄物処理業の許可を得ているかなど、法令にもとづいた適切な処理を行うために必要な許認可を確認します。過去の処理実績も調べてください。長年にわたり、安定して油処理業務を行ってきた実績があるか、処理量や処理方法、トラブルの有無などを確認します。
顧客からの評判も重要なポイントです。実際に業者を利用している飲食店の意見や評価を収集し、サービスの質や対応、料金などを総合的に比較検討します。
信頼性と評判

優れた業者を見つけるために、以下の信頼性と評判を確認しましょう。
- 業界内での評判や口コミ
- 長年の実績がある業者は、信頼性が高まります。顧客からの評価やレビューも参考になります。
- 環境保護団体からの認証や表彰
- 業者の環境への取り組みの真剣さを示す指標です。
- 地域社会との良好な関係性
- 信頼性の高さを示す指標です。
- 長年付き合いのある飲食店の推薦
- サービスの質や信頼性について、ある程度の保証が得られます。
- 業界団体や協会への加盟状況
- 優良な業者は、業界団体や協会に加盟し、業界全体のレベルアップや情報交換に積極的に取り組んでいる傾向です。
- メディアでの取り上げられ方や評価
- 新聞や雑誌、Webメディアなどでの評価の確認で、客観的な情報を得られます。
従業員が長く働き、仕事に満足している企業は、社内体制が整っており、サービスの質も高い傾向です。財務状況が安定している業者は、長期的に安定したサービスを提供できる可能性が高く、安心して取引ができます。
飲食店の油処理に関する法律

飲食店での油処理に関する法律は以下のとおりです。
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
- 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
廃棄物の処理及び清掃に関する法律は、事業者が自らの責任で廃棄物を適切に処理することを定めています。飲食店で発生する廃油は、特別管理産業廃棄物に分類されるため、通常の廃棄物とは異なる特別な管理が必要です。漏洩や悪臭を防ぐために適切な容器に保管し、定められた方法で収集や運搬、処分する必要があります。
飲食店経営者や清掃業者が、自身で廃油を処理するのは原則として認められていない点に注意しましょう。都道府県知事等の許可を受けた産業廃棄物処理業者に処理を委託する必要があります。廃油の処理を業者に委託する際には、産業廃棄物管理票の交付や、廃油の処理状況の把握や管理が求められます。
法律を守らずに廃油を不法投棄したり、不適切に処理したりすると、罰則の対象となるため注意してください。一定規模以上の事業者には、廃棄物処理計画の作成や実施状況の報告が義務付けられています。廃油の保管場所には、廃油の種類や管理責任者などを表示しましょう。廃棄物の処理状況を5年間記録・保存してください。
» 廃棄物処理法の概要と種類別の廃棄方法、罰則などを詳しく解説!
» 産業廃棄物の不法投棄とは?基礎から業者選びのポイントまで解説!
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律は、食品廃棄物の再利用の促進や、環境への負荷の減少を目的とします。法律に従って食品廃棄物を処理すると、環境保護に貢献できるだけでなく、法的トラブルの回避が可能です。食品関連事業者には、食品循環資源の再生利用等の実施義務があります。
国は再生利用等の目標値を設定し、達成を推進します。食品廃棄物を多量に発生させる事業者には、発生量や再生利用等の状況に関する報告義務が課せられるので、注意が必要です。食品循環資源の再生利用を行う事業者を支援するための、再生利用事業者の登録制度も設けられています。
» 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の概要|農林水産省(外部サイト)
飲食店における油処理コストを削減する方法

飲食店における油処理コストを削減する方法は以下のとおりです。
- 使用する油を見直す
- 使用時間を延ばす
使用する油を見直す
適切な油の選択で、油の使用量を減らし、廃油の処理頻度を下げられます。植物性油は一般的に動物性油よりも健康的で、調理に適しています。高温に耐える油を選ぶと、油の劣化を防ぎ、長期的な使用が可能です。酸化しにくい油を使えば、油の品質を長く保てるため、交換頻度を減らせます。
使用時間を延ばす
使用時間を延ばすと、油の交換頻度を減らし、コストも削減できます。適切な温度での調理を徹底しましょう。高温で調理し続けると油の劣化が早まるため、食材や調理方法に合わせた適切な温度の維持が重要です。
定期的なフィルタリングも行います。調理中に発生するカスや不純物をこまめに取り除くと、油の劣化を遅らせ、清潔な状態の維持が可能です。油の状態の確認も習慣化してください。色や臭い、粘度などを定期的に確認し、劣化の兆候が見られたら早めに交換すると、常に良質な油で調理できます。
油の品質が落ちすぎると料理の味や安全性に影響するので、適切なタイミングでの交換が必要になります。揚げ物の種類による油の使い分けも効果的です。魚用と野菜用で油を分けると、それぞれの油の寿命を延ばせます。油の保管方法の改善も大切です。
酸化を防ぐため、使用後はよく冷まして密閉容器に入れ、直射日光を避けて保管しましょう。
まとめ

飲食店における油の適切な処理は、衛生管理や環境保護、法律遵守の観点から重要です。適切な油処理を行うと、店舗の衛生状態を保ち、環境への悪影響を防げます。法律を守れば、罰則を避けられるだけでなく、社会的責任の遂行につながります。
油処理に関する知識を深め、適切な対策を講じれば、飲食店の円滑な運営が可能です。解説した情報を参考に、自店舗に合った油処理の方法を見つけましょう。